“受け継ぐ”という矜持。

ABEKIN Co.,Ltd. - President Takaki Abe - 2019.2.8

株式会社アベキン

阿部 隆樹

農業用品の金属加工業からスタートしたアベキン。
阿部氏が三代目の社長。
現在では、高級家具のフレーム製作や、
オフィス家具、什器関係などを手がけ高い成長率を実現。
代替わりは15年前。
債務超過であった同社を3年で立て直し、
以後、10年以上にわたり右肩上がりの成長企業に。
自社の強みを磨き上げ、新しい営業ネットワークを
築き上げてきたスタイルの中には、
徹底した自己意識の改革があった。

環境を変え
意識を拓く、
未来につなぐ普遍の挑戦。

意識は不思議です。確かに認識できるものの、それを説明することは難しい。たとえば仏教においては、眼、耳、鼻、舌、身という五感=五識とは別にある第六識=心だと位置付けられます。脳科学の世界では、私たちが体験していることすべてを指したりもします。哲学の世界では”感じるモノゴト”を意味する「クオリア」と呼ばれることもあります。では、生活の半分以上が仕事時間でもある私たちは、どのような意識下にあると言えるのでしょう。また、どのような環境で仕事=自己表現することが、私たちの意識を成長させてくれるのでしょうか。
幼少期における家庭環境が人間性に影響を及ぼすように、社会に出た時身を置く仕事環境がその後の人生に影響を与えることもあるでしょう。こうした現代において、アベキンの阿部社長は、会社という環境構築に対してストイックなまでの意識を配る経営者です。「意識が環境を作り、環境が意識を変える」と語る阿部さんの姿勢の本質には、過去を継承し、今の時代を作り、未来につなげる経営者としての矜持がありました。

「今」は、未来の糧。

まず、未来のことを考える。結局「今」は、未来につながる糧だと思う。私はこの数年、M&Aによって2社を買収した。1社では私は2代目の社長となり、もう1社では3代目の社長になる。どちらも財務は健全な企業。1社の利益率は驚異的ですらあった。技術レベルが高く、グローバルに展開されている腕時計製品の重要なパーツを一手に担っていたからだ。しかし後継者がいない。苦慮した上で会社の引き取り手を探していたという。仲人は銀行だった。15年ほど前、経営に苦しんだアベキンだったが、直近10年では経営が上向きになり財務が大幅に改善した。その姿を理解してくれている銀行だったから、ここならばと考慮してくれたようだ。大変にありがたい。決断に躊躇はなかった。技術が集積し、企業が豊富にある燕は非常に魅力のある土地。ここから技術や会社をなくしてはならないという思いがある。未来にしっかりした形で残せるのならばこれ以上の喜びはない。むろん、アベキンという会社も強くなる。M&Aをしたことで自分の意識も広がり、経営者として視野も広がり余裕も生まれている。紛れもなく幸運だった。

心を動かす。

不思議だが確かな事実として、自分が何かをしようと思った瞬間にそうした人や物事とつながる機会を得ることがある。これは意識の話だと考えている。たとえば、今日カツ丼を食べようと思っている人にはカツ丼の看板が目に入る。しかし、昨日パスタを食べようと思っていた時に、カツ丼の看板やお店のことは脳裏にも浮かばなかったはずだ。同じように、関わる人たちの顔ぶれも、自分の意識次第で変わる。事実アベキンは、この15年でお客様の顔ぶれが大きく変わった。もとは農業機具を作っていたが、現在では高級家具のフレームを手がけてもいる。オフィス用品や、コンビニにならぶ什器の一部も我々の仕事だ。これは、アベキンが建築部材の板金を手がけていた時に出会ったデザイナーがいて、その方から、我々の技術が家具の分野に役立つことを知ったことがきっかけだった。うちならできる、という確信を武器にその分野の企業に営業に行ったことを昨日のように覚えている。自社の可能性の中に、新しい未来を見つけるとはこうしたことを言うのだと思う。以後同じ方法で新しいクライアントの幅を広げ、技術の進化も進んだ。家具を販売するメーカーは、我々の従業員の労務環境の向上も求めてくる。おのずと、我々の社内環境の革新にもつながる。

意識を変化させるということは、新しい「未来」を視野に入れるということでもある。事業を成功させる意味は、そこにこそあるのだと思う。会社が儲かるということは忙しいということでもあるし、同時に次の年、またその次の年が良い結果になるのだろうかという不安が増えるということでもある。だからこそ、関わるスタッフ、お客様といったステークホルダー全体の「未来」を幸せにするのだというモチベーションこそが、会社経営の根幹にあるべきではないか。

意識は高く、環境は豊かに。

意識に対する興味は尽きない。意識とは不思議で、高くもなれば低くもなる。怖いものでもある。この意識を育むために環境が必要だ。自分にとって、意識というのは心の持ちようのことだ。まず、五感で感じるものに目を向けていく。次に、自分の目指すものを考える。すると再び、目指すものに必要となる五感が見えてくる。たとえば、高級なものをどんどん経験すれば五感が磨かれるわけではない。理解できる心=意識がなければただ高いものに過ぎない。素材が貴重なのか、技が素晴らしいのか、空間やサービスにこだわりがあるのかといった本当の価値に目を向けなければならない。値段に込められた価値は高い安いで表現できない。値段を抑えるための努力もまた大変に貴重だ。そうしたことを、見極め、理解できる心=意識が必要でだと思っている。オフィスを作り変えたのも、工場全体の外観を紺色にしているのも、経営オフィスと工場オフィスを分けていることも、セミナールームも完備し様々な勉強会や外部有識者を招いた講座などを実践しているのも、すべては意識を育む環境づくり。スタッフがどんどん活用してくれれば理想だ。そうして育まれた意識の上に、会社の様々な方向性の議論や、商品開発の議論が乗ることで様々なスピードも品質も上がると確信している。

信念はアベキン。

幼少期から「アベキンの子」と言われてきた。揶揄されていたことは重々承知だが、誇りでもあった。アベキンは自分で3代目になるが、15年前に外の企業から戻った時は債務超過の真っ只中だった。当時売り上げで6億円ほど。自己資本比率はマイナスだった。状況は今からでは想像を絶するほど苦しいものだった。あの経験は決して忘れない。当時の肩書きは営業部長だったが、徹底して会社改革に乗り出した。モチベーションになったのは一種の愛情だったと思う。「アベキンの子」としての矜持だったと思う。どんなに苦しくても、自分がアベキンに関わることも、経営者になることも何も疑っていなかった。事業を清算するとか、様々な方法があるとは思うが、自分にはそうした考えは全なかった。会社をよくする、復活させる、それこそが自分の使命だと強く信じていたし、そのために行動することに躊躇はなかった。その蓄積が今であるし、会社は確かに強くなった。それでも道は半ば。やりたいことはどんどん増える。結局は未来を創っているのであり、成功することが目的ではないからだ。「未来」は自分一人ではどうにもできない。仲間がいて、笑顔があり、その先に見えるやりがいや自信といったものが生み出す「新しい意識」の上にこそ花開くものなのだ。