“言葉の強さ”を求めて

HONMA SANGYO Co.,Ltd. - Senior Managing Director Naoki Honma - 2018.7.24

有限会社本間産業

本間 尚貴

有限会社本間産業の専務取締役。
燕市の調理道具の大手商社に入社、現場を6年、営業を6年ほど経験。
父親が起こした本間産業に2004年に入社。
平社員として現場経験を蓄積しつつ、2013年より専務に昇格。
新しい企業価値創出のための営業活動に注力し続けている。

言葉の”怖さ”を知れば、
発言は変わる、
言葉の”強さ”にこだわる経営者。

コミュニケーションの本質的な課題のひとつは、常にずれる可能性をはらんでいることです。原因は、同じ人が二人といないからともいえますし、思考そのものを共有できないからとも言えます。たとえば、写真を見せながら事象を説明すれば共通言語を構築しやすいですが、脳の中身を写真に収めることはできません。そこで我々は言葉を尽くします。思考や哲学、知識や経験を伝えながら認識のずれを埋め、コミュニケーションをチューニングするのです。しかし「言葉」にはその人物がもつ知識や経験が宿ります。結果的に、同じ単語でも人によって使われる場所やタイミングが異なり、伝わる意味が深くも遠くも重くも軽くもなります。特に、言葉を適切に用い信頼を高めることができる人の存在は、稀有といって良いでしょう。
本間さんは言葉を尽くすことに強い思い入れを持っています。正面から相対した人間の多くはその言葉に真摯さを見出すことができます。それは、発言一つに嘘がないよう、あらゆるものごとを整理し、強化していくことで得られたものでした。コミュニケーションをイメージしながら様々な戦略のずれを埋め、かつ強化していく経営者の姿がそこにあります。

結果で認めてもらう、これしかなかった。

社会人としてのキャリアは燕にある調理道具の大手商社から。6年間営業マンとして様々な小売店、メーカーに足を運びました。商品を仕入れ卸すという一連の流れを経験できた。ありがたかったですね。最初は実家の商売を継ぐ意識はなかった。父(現社長)も様々な商売をしていて、現在の「洗浄専業」というスタンスはまだぼんやりでした。
本間産業に入社したのは14年前。洗浄専業という姿が見えてきたころ。そもそも「洗浄」という分野は特殊で、商品の製造ラインの一部として取り組む会社がほとんど。日本で、洗浄を専業にしている会社は数えるほどしかない。トリクロロエチレンという特殊な溶剤を使用するケースも多く、環境負荷が極めて高いことも課題となっている。しかし、金属を素材にする製品なら例外なく油がつく。最後に必ず洗浄しなければならない。ここに大きな可能性を感じた。必要不可欠なプロセスだからこそ、環境対策も仕上がりも、あらゆる面において胸を張っていられる仕事にしなければならないという思いが、本間産業入社後どんどん強くなった。そんな折、燕のある社長から炭素洗浄の可能性を聞いたのです。高価だけど、環境負荷も低く仕上がりがトリクロロエチレンよりも良い。全国でも導入が進んでいなかった。チャンスだと感じた。銀行に融資が欲しいと無我夢中で掛け合いました。以後、数年かけて事業規模は倍以上に。決して順風満帆ではなかったが、信じてくれる人たちに対して結果で応えたいと思ってきた。

嘘をついてまで
仕事をする意味がない。

結局は、嘘をつきたくないという一言に尽きます。嘘をついて人に接しても、結局、真実の関係にはなれない。関係が正しいものにならなければ、品質を高めることに限界がくる。しかし、人には欲がある。良く見せたいという気持ちもあるし、仕事が欲しいという気持ちもある。それらを諌めながら「良い仕事」を見極めていくことが本当に重要。結果的に、法人の質も高まるし、働くみんなの気持ちも高まる。そこを追求し続けたい。

ただ、正直でいることと、人に魅力を感じさせることの両立が難しい。自分は面白い話ができるわけでもないし、教養に富んでいるというわけでもない。だからこそ、「できること」を見つけるのに力を注いでいる。たとえば、お客様にニーズがあって自分たちがやったことのない洗浄案件であれば、試験コストは自社が負担するから挑戦させてほしいと話す。実はこの場合、より失敗ができない。丁寧に、きっちりと、高い品質で仕上げなければ、逆に評価が下がる。次の仕事に繋がらなくなる。社内がそれを理解できるように伝えるのが自分の仕事ですし、中もそれに応えてくれる。自分が恵まれたのは、こうした話を理解してくれる人たちが中にも外にもいるところ。真摯に向き合わなければと身が引き締まる。

失敗できるほど余裕がない、だから挑戦する。

挑戦することに失敗はない。得られるものが必ずある。数字的な結果は一義的なものにすぎない。経験、思考、着眼、発想など手に入るものは考え方次第で山ほどある。だからどんどん試したい。ただし、贅沢はできない中で挑戦そのものが正しいかを徹底的に考え尽くすのが大事。自分が考えることなんてたかがしれているが、できるだけ細部にわたって吟味する。最悪なのは挑戦すらしないことですよ。
本間産業は、来年に工場規模を2倍にする。先日から、施工関連の人々とのミーティングが始まった。炭素洗浄を始めた時は小規模機材をリースしていた。仕事が増えるに従い、本格的な機器を購入し工場規模を拡大した。今では、その受注量がいっぱいになることがある。機器が壊れでもしたらお客様に迷惑をかける。だからこそ、新しいリソースを作ることの優先順位は高い。同時に、ステージが変われば意思決定も変わる。追求に終わりはない。じゃあ未来の受注も満杯か、なんてことはあり得ないし保証もない。もちろん怖さはある。それでも、今アプローチすることで、お客様に話す内容が変わってくる。強くなる。仕事をこなすときにも”待たせるかもしれない”という意識がなくなる。必ず会社も変わる。

コミュニケーションがすべて。

自分はまだ専務で社長ではありません。長男だから社長になるのではなく、周りが存在として認めてもらえなければ意味がない。特に自分は、コミュニケーションロスがなによりもったいないと考える人間。たとえば、喧嘩はときに必要なことかもしれないが、本当に伝えるべきことが見えなくなることがある。コミュニケーションがつながらなくなる。会社に関して言えば、社内の雰囲気が悪ければ外に伝わる。立場に関係なく、常に仲間として話を聞き、対応することに腐心したい。
地域に対しても同じ。本間産業でもまだトリクロロエチレンを使った洗浄を行なっている。この環境負荷低減に挑むのも会社の使命のひとつだ。研究には7年近くかけた。廃液が環境に負荷をかけないように徹底している。Webでは排出する有害物質の数値も開示している。すでに環境基準の10分の1程度になった。地球と喧嘩できるわけがない。地域も同じ。すべての取り組みは、関わる人、地域、お客様、そして地球に直結している。だからコミュニケーションをしっかりしなければならない。これこそが、自分が本当に強くしていきたい光だ。