”作る人”を育て続けることが、
私の使命。

HASEGAWAHIKIMONO CO., Ltd. - President Katsunori Hasegawa - 2017.7.20

有限会社 長谷川挽物製作所

長谷川 克紀

長谷川挽物の3代目社長。
大学は福井、その後工業機械メーカーに就職し、20年前にハセヒキに入社。
ある程度安価でありながらも、高精度かつ大量生産可能な金属加工会社への成長させる。

使命から目をそらさないことが、
経営に明らかなる強さをもたらすことを
再認識させてくれる経営者。

人格と呼べるものは世の中に2種類しかありません。ひとつは個人格、ひとつが法人格です。個人格はあらゆる方法で人格の品性や個性を伝えることができます。表情も、言葉も、すべてがコミュニケーションのインターフェイスになります。しかし、法人格にはその全てがありません。法によって人格と固定されなければならない無形の存在だからです。だからこそ重要になるのが、法人がなぜ生まれ、活動するのかという使命=ミッションです。
有名なソニーの設立趣意書の冒頭には「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」という言葉があり、ソニーの根幹をなしています。しかし一旦使命と向き合うことをやめ、売上や収益を目指す行為が使命を代替えするようになると企業は迷走し始めます。売上や収益は、あくまで使命をより長く社会に提供し続けて、人間社会の正しい発展に寄与するための血液であるというのが正しいでしょう。
求められるのは使命と向き合い続けながら、時代に合わせ法人をハンドリングしていく経営です。しかしこれは、極めて困難な作業でもあります。ハセヒキの長谷川社長は、この作業を呼吸するように実行できる存在。そして、そうした行為自体が経営を強くする最良で最強の方法であることを我々に教えてくれる存在です。

僕らがつくるものの品質が悪ければ、きっとどこかで人が死ぬんです。

僕らはただの加工屋かもしれない。作っているのも、ボルトやナットなど小さな品物が主ですし。でも、僕らがつくるものの品質が悪ければ、人が死んでしまうことだってありうる。世界をゆるがす大事故につながることもありうる。だから僕らは検査のレベルを上げるためにできうる限りのことに取り組みたい。象徴的なのは2015年、PMIという検査器具を導入したことかな。X線を使って金属の成分を把握する機械ですが、町の加工屋でこんなものを持っている会社はまずない。逆に大手の金属素材メーカーや研究機関ではもっていなければならないものです。そもそも加工屋の世界は、素材は支給されるか購入するもので自分たちが作るものじゃない。入手した時点でその素材に対する信頼度は100%でなければならない。それでも僕らは、やっぱり人の命のことを考えてしまう。だから、100%ではないかもしれないという疑いを持つことが大事だと思っているんです。ハセヒキでは、支給材も購入した材も必要と感じれば全数PMIでチェックする。自分たちの目でやっぱり納得して確信をもった素材を加工することが僕らの品質の基礎だと思うんですよ。

働く人間が人生を理解して、
哲学を知り、
役割を見つける、
これは経営の責務。

企業経営はとにかく人材とその育成につきるんじゃないですかね。ハセヒキで働いているのはほとんどが高卒です。社会的には勉強ができたわけじゃない。それでも頭の良さとは別なんですよ。勉強ができても頭の悪い奴はいっぱいいるように、勉強ができなくても頭の良い奴はいっぱいいる。そうした人間がここで働けば家のローンが組めて、贅沢はできないかもしれないけれどある程度好きなことにお金を使えて、車をもって、町を胸はって歩けるんだということにしなければいけない。

同時に、社会に役立つ技術やノウハウを身につけてビジネスをしていかなけりゃならない。本当の意味での人生を理解して、哲学を知り、役割を見つけられる場づくりと、人材育成をしていかなけりゃならない。これは経営の責務なんですよ。

ハセヒキは「強い」会社でいたい。

ハセヒキは「強く」なりたい。強い企業でいることが、社員にとっても、社会にとっても、関わる全ての人や会社にとって重要だと考えているからです。しかし「強く」あるというのは本当に難しい。昔、ハセヒキについて加工屋として素材にフォーカスしていく会社になるのか、自分たちの技術を生かした製品をつくる会社になるのか振り幅を考えたことがある。結果的には、素材にフォーカスすることを選んだ。素材の世界は魑魅魍魎というか、もうおびただしいまでに難しい素材が溢れている。次々に新しい素材が研究開発されて生まれている。できた素材には、今、加工ができないようなものもあるけれど、10年後には社会が代わりビジネス世界で主流の金属の一つになる可能性を秘めている。

そうやって、日夜素材が生まれては使われている。素材の世界というのは、結局社会そのものなんですよ。だから、素材に強いということは、ハセヒキの「強さ」の根幹にあるべきだと今は考えています。ちなみに、製品を作るというトライもし続けてはいます。こちらは趣味の領域を超えませんけれど、トライすること自体に意味がないということはないですからね。

次の社長が挑み突破しなければ
本当の社長になれない、
そういうメンバーを
中で育てている。

ハセヒキでは品質技術会議という若手リーダー6人による会議を週一で実施しています。文字通り、ハセヒキの品質について考えていますが、主には加工素材と技術の研鑽が多いですね。ねらいは3つあります。ひとつめは、50人からなるこの会社で実際に外に対して営業したり見積りを作っているのは実質的に私含めて2名です。この層をせめて倍にしたい。仕事は内側にあるのではなく常に外側にある。外の社会を知り、イメージし、お客様と対話できるスキルを社内に広げる必要があります。しかし、見積りひとつ作るのでも、素材、工程、人的リソース、経営などを理解していなければなりません。私は、ただ数字をはじくだけの見積もりなんて世の中に不要だと思っている。

彼らのはこうした本質的なノウハウを理解して欲しいし、そう期待しているんです。二つ目は純粋に加工技術の向上です。難しい素材はどんどんでますし、難易度も上がる一方です。素材によっては刃が当たった時の摩擦で硬度が変わるなんてものもザラです。こうした時に、極論素材を触ったり、化合式を見ただけで作業イメージが構築でき、精度も上げられるような議論をしたい。必ずハセヒキの強さに繋がるはずです。最後は、次世代の経営層の構築です。ハセヒキは私で3代目で、息子に4代目をつがせます。ただし、世襲制は一歩間違えば一気に品質が悪くなる要因でもある。若手リーダー6人は、いわば私の息子を品定めし、最初は敵対するような存在であって欲しい。次の社長が、本当の社長になるには、彼らを納得させて突破していかなければならないのです。実際、自分もそうやってこの会社を継承しました。そのためのこのメンバーであり、品質技術会議なのです。

この土地の社長コミュニティは本当に仲が良い。

この土地は、社長同士がとにかく仲がいい。みんな同級生や先輩ばっかりですしね。そうしたコミュニティがあって、変なことしたり真っ当じゃないとそこから外されてしまう。だから、そのコミュニティに認められるにはちゃんとした実績が必要だし、外されないようにみんなちゃんとした経営をやるんです。社員はバチバチやり合うような2つの会社があったとしても、社長同士はすごく中が良いし、情報も共有しているということがこの土地ではよくあるんですよ。

自分を鍛え律するために、
土地の中での役割も
大事だと考えている。

政治的な役回りも土地の中でやらなきゃならない。その度、経営に割く時間がもってかれる。だからといっておろそかにはできない。全部ちゃんとやらなければ足元をすくわれる。自分を鍛えたり律するために、土地の政治的な役回りを受けるということも大切なことだと思っています。